『逃げられない世代』【レビュー】 今後20年の日本財政の流れがわかった
宇佐美典也さんの著書『逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―』を読みました。
社会保障、特に年金は破綻する、日本財政は破綻して円は暴落すると、まことしやかに書いている記事、書籍を見るにつけ、いったいそれは本当なのか、本当だとするとどういうスケジュールでそれはやってくるのかを知って、準備しておきたいと思っていました。
しかし、どの本もいたずらに危機感を煽ったり、逆にまったく大丈夫だと主張したり、財務省や、グローバル企業の陰謀論が出てきたりと、満足のいく答えが得られませんでした。
本書を呼んで、ここで書かれていることは、現実的で正しそうだという感覚を得ることができました。
それは根拠が明確で、誰にでも理解できる内容だからです。
なぜ、このようなまっとうな意見が、今まで普通に誰の目にも触れられるようになっていなかったのかが不思議に感じるくらいです。
ぼくが本書で特に印象に残った点を3つまとめます。
『逃げられない世代』先送りの原因
日本の社会は、場をみなで共有するという意識が非常に強く働いています。
会社の働き方を見ても、欧米のようなジョブ型ではなく、メンバーシップ型と言われていて、会社に忠誠を尽くす一員として、あらゆる仕事をこなしながら、定年まで働き続けるというモデルです。
宇佐美氏によると、ある意味健全で、社会が大混乱に陥りにくいという特長を持っています。
そのかわりに、必要なことが、痛みを伴うことであれば、それは「先送り」になってしまいます。
官僚と政治家は怠けて、あるいは悪意をもって先送りしているのではなく、四苦八苦して大崩壊を防いでいる、その結果が「先送り」なのだと、宇佐美氏は強調します。
人口が増えていた時代は、「先送り」は右肩上がりの成長がカバーしていました。
しかし、超高齢化社会となった現在の日本では、「先送り」したツケはどこかで払わないといけません。
日本の財政は破綻するのか
財務省は黒幕なのか
よく財務省が裏で政治家を操っているなどの陰謀論をテーマにした本やネットでの情報を目にします。
宇佐美氏は、それに対して、財務省は「政治家の要望に応じて、必要な資金を調達して、借金を管理する機関」であって、それ以上でもそれ以下でもないと強調します。
あまりにも巨額に積み上がった借金の額が、さまざまな憶測を呼んでいるというのが実態です。
国家も、企業と同じで、新たな価値を生み出すためには借金は必要です。
利子がきちんと支払えれば、借り手と貸し手の双方にWin-Winの関係となり、経済的には問題はありません。
財務省が一番気にかけているのは、借金の額よりも、「金利を払い続けられるか」ということなのです。
現状の日本の収支は
上述の金利の支払いは、平成30年度は9兆円です。
そして平成30年度、税収総額から支出総額を引いた差額は、マイナス10兆円です。
つまり、毎年約20兆円の赤字が出ているというのが、日本国としての収支で、これを借金で埋め合わせるという、まさに先送りの自転車操業を続けているのです。
消費税は1%で2.2兆円の税収になるので、この毎年の赤字を埋め合わせるには、消費税を一気に10%程度上げるしかありません。
あと何年先送りできるのか
国債の総額は988兆円あり、その93%を国内機関が所有しています。
もし、どこかの機関が保有している国債を大量に売って国債の価格を下落させれば、日本経済が影響を受け、売りを仕掛けた金融機関自らの首を締めることとなります。
だから国債の暴落は起こりづらいと言えます。
そして日本の家計の金融資産は1800兆円あり、まだ国債を消化できる余裕があります。
988兆円の国債に加えて、短期債務と地方自治体の債務を合わせると、1310兆円になります。
今後毎年25兆円の赤字が出続けると仮定すると、あと20年で限界に達することがわかります。
つまり、このまま先送りを続けると、20年後には国内で国債を支えきれなくなり、外国金融機関に財政を依存しなければならなくなり、まったなしの財政再建を迫られるということです。
財政破綻は起こるのか
財政破綻という言葉には、紙幣が紙くず同然になってハイパーインフレが起こる、という状況を想像しがちです。
それは、戦前のドイツや、冷戦崩壊後のロシアなど、他国で過去に起こった状況だからです。
しかし、日本においては、国債は国内で保持しているため、財政問題は国内問題に帰結します。
また、宇佐美氏は、それに加えて、日本の基本的安全保障モデルが続くことが前提と付け加えます。
それは「資源を輸入して、フルセット型の産業構造で国内の需要を賄いうる経済体制を整備し、余剰を輸出して貿易黒字を維持する」というものです。
単に、貿易黒字を出すだけでは充分ではありません。
国内の需要を賄いうる経済体制を維持するというのがポイントです。
そして、資源を効率よく輸入できる体制を維持するために、安全保障が必要になるのです。
今後の起こりうるシナリオ
日本の財政は、国債を国内で消化しつつ、前述の安全保障モデルが維持されている限りは、破綻しないということがわかりました。
しかし、国債の国内消化の限界は、前述のようにあと20年です。
宇佐美氏が想定する20年後に起こるシナリオは、「政府財政規模の急激な縮小」です。
その際、まず切り捨てられるのは、年金、医療の社会保障です。
年金は支給年齢が上げられ、かつ減額となり、医療は自己負担率が上昇します。
20年後の急激な縮小を避けるためには、赤字の増大を少しでも抑えていかなければなりません。
そのためには、消費税の増税が避けられません。
たしかに、企業の内部留保は増加していますが、法人税を上げることは、株価の下落につながり、年金積立金の運用に影響が出て、結局国民に影響が大きくなります。
消費税は、毎年増える25兆円の赤字を埋めるために、今後20年かけて、現状の8%から20%まで上がることを受け入れなければなりません。
そして、消費税増税ができても急激な財政規模の縮小が避けられるだけで、社会保障の縮小は覚悟しなければなりません。
まとめ
宇佐美氏の論理は、極めて明快で、誰もが納得のいく内容です。
それは、公表されているデータによる事実認識に基づいているからです。
宇佐美氏は官僚出身ですから、同世代の官僚も同じような認識を持っているのだろうと、間接的に知ることができました。
やはり優秀な官僚のおかげで日本はここまで大混乱に陥らずに社会を維持してきたのだと思わざるを得ません。
本書のおかげで、今後20年のおおまかな予測を持つことができました。
ぼくは宇佐美氏が言う「逃げられない世代」よりは10数年上の世代であり、宇佐美氏の世代に比べて少しは社会保障の恩恵にあずかる可能性はあります。
しかし、20年後には年金、医療ともに、社会保障に頼らず、自立して守っていけるように備えていかなければならないのだと納得ができました。
ぼくは、今後20年間のシナリオをソフトランディングさせるために必要なのは、新たなテクノロジーだと考えます。
新たなテクノロジーで、生産性が向上し、健康寿命を伸ばすことができれば、経済を伸ばし、社会保障費を減らすことが可能になります。
年金編のレビューは次ページへ。
逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―(新潮新書)[Kindle版]
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宇佐美典也 新潮社 2018-06-22
宇佐美典也さんの著書『逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―』の年金の部分について再度読み直しました。
前回書いたレビュー記事では、財政問題について焦点を当てました。
その中で国債の国内消化の限界はあと20年で、20年後(2037年)に財政規模の急激な縮小を起こさないためには、消費税を20%まで上げていくこと、社会保障の縮小を受け入れなければならないことがわかりました。
今回は年金問題はどうなるのかに焦点を当てたいと思います。
最近読んだ野口悠紀雄氏の著書では年金の債務は国債残高の60%になっていることを知りました。
すでに納付を終えた世代に対する年金の積立額は500兆円も不足しているのです。
これからの年金制度をどうやって維持していくかを元官僚の宇佐美氏がどのように分析しているのかを読み直してみようと思いました。
現在の年金給付はどうなっているのか
2017年の社会保障給付は120兆円です。
120兆円をどうやって調達しているかというと、被保険者と事業主が納めている保険料が60%、残りが国と地方からの税金となっています。
社会保障給付の額はGDPの22%にものぼり、保険料だけではまかなえないため、40%を税金で補填しているというのが現状なのです。
社会保障給付の内訳は年金47%、医療32%、その他福祉20%となっています。
年金の今後の見通しは
2042年に65歳以上の人口は3500万人から400万人増えて、3900万人なります。
年金給付のピークはこの時代になります。
2042年以降は高齢者の人口は減っていきますが、後期高齢者人口は2054年にピークを迎え、現在より700万人増の2450万人になります。
この頃、医療、介護の給付がピークになると考えられます。
2018年5月に2040年の財政のあり方の議論が始まりました。
議論のための素材資料は、ベースラインケースと成長ケースの2パターンを試算しています。
ベースラインケースでは、2027年度の名目GDP成長率は1.7%、2028年度以降は1.2%としています。
2016年までの過去20年の成長率が0.3%しかなかった現実を踏まえていない検証には、リスクが伴っています。
そのベースラインケースでも、2017年に対GDP比で20%だった社会保障給付は、2040年に最大で24%に増加します。
この増加は消費税換算では6%になります。
さらに前回のレビューでも書いた通り、毎年25兆円の財政赤字を解消するための増税も必要となっており、それを合わせると、2040年の対GDP比は22%、2050年までに30%という計算となります。
経済成長しない場合は、年金だけでなく、社会保障全体を含めて大幅な給付と負担の見直しが必要になることは明白です。
年金積立基金とは
年金が他の社会保障と違うところは、積立金があるということです。
その他の社会保障は、被保険者が支払った保険料が、その年度内にそのまま受給者の給付に当てられます。これが賦課方式という負担の方法です。
しかし、年金は基本は賦課方式としながら、積立方式もプラスされています。
積立制度が始まった当初は、人口比と寿命の要因で積立金が余ったため、現在までそれが運用されています。
これは2001年から2039年までは使わずに、将来のために運用していくことになっています。
それを60年かけて取り崩して使っていくというのが、政府が100年あんしん年金と呼んでいる理由です。
この100年に必要な厚生年金は1920兆円とされています。
うち1370兆円は保険料、380兆円が税金でまかなわれ、170兆円を運用した積立金で補う試算になっています。
年金積立金の運用については、株の比率が高まっており、株価によって積立額が大きく変動します。
2017年時点では株高で162兆円まで拡大していますが、2011年には119兆円にまで落ち込んだこともあります。
年金積立金は、年金を受給する国民にとって重要なので、株を持っていない国民にとっても、株価の推移はひとごとではないのです。
まとめ
野口悠紀雄氏の書籍により、年金の不足分は国債残高の60%にのぼる債務になっていることを知りました。
あらためて、宇佐美氏の見解を読み直してみて、年金だけではなく、社会保障全体の財源を確保することが困難になっていることがわかりました。
先送りのつけは、納税者も、被給付者も等しく負担をしていくしかありません。
逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―(新潮新書)[Kindle版]
posted with ヨメレバ
宇佐美典也 新潮社 2018-06-22
